旅立ち


日本ではブルガリアの情報は極めて少ない。そもそもブルガリアってどこにあるんだ?という人も多いであろう。上はインターネットで拾ったヨーロッパの地図であるが、この地図上で右の方を捜して頂きたい。ギリシャの右上、黒海沿岸の国である。首都はソフィア(sofia)、緯度は東北・北海道近辺、時差は7時間(サマータイム6時間)。
さて今回、ひょんなことからブルガリアに旅立つことになった訳であるが、俺だって海外旅行の経験は数える程、それもアメリカとかイギリスとか日本から見てメジャーな国にしか行ったことがない。早速ガイドブックを購入して(「地球の歩き方」であるが)、いろいろ勉強してみたのだが、それによるとブルガリアに行くにはビザが要るらしい。いきなり面倒なことである。大使館なんて今まで行ったことがない。
新宿区代々木にあるブルガリア大使館は、どういう訳か朝の10時から12時までしかビザの発給手続きを行っておらず、このあたりでああ旧社会主義国ってヤツはとか思いはじめてしまうのだが、まぁ俺が彼らの方針を変えられる訳もなく、眠い目をこすって大使館に向かった(俺は普段は朝10時には寝ているのである)。しかしここで、俺はまたしても自分の認識不足を再確認させられることになる。日本にある大使館だから日本語でオッケーだろうと思っていたら大甘で、ビザ発給の担当者は英語で話しかけてくるのである。いろいろ言われたあげくにわら半紙を渡されて、これに必要事項を記入しろと言われる。住所氏名等を書き込んで、「滞在地」のところではたと困り(どこに泊まるのかこの時点では決まっていなかったのである)、空欄のまま出したら担当者がこのままでは発給できないと言ってわら半紙を突き返す。どこに泊まるか判らないから書けないと言うと、ホテルに泊まるのかと訊かれたから、そうだと言ったら、ならば「Hotel in Sofia」と書けと言う。そう書いたらOKと言って10日後の日付をメモした紙を渡された。この日に出来上がるからまた来いと言うことらしい。それにしても「Hotel in Sofia」では書く意味などあるとは思えないのだが、これはやっぱり日本のお役所仕事と同じで、書きさえすればいいって奴なのだろうか?
10日後、またも早起きをしてブルガリア大使館に向かう。今回はスムースに事が運び、見事ビザを手にすることが出来た。

何故かブルガリア語とフランス語のみの表記である。英語表記がないのだ。そういえば国際社会ではフランス語が共通語として使用されるとかいう話を聞いたことがあるがそういう理由なのであろうか。それにしてもフランス語ならば意味はわからないまでも文字は読めるし、英語と似たような単語なら類推も出来ようが、ブルガリア語って奴は何とまあまったく意味不明な文字セットを使っているのだろうか。キリル文字とか言うらしいが、「И」とか「Я」とか「Л」とか、眺めていると読む気を失くす。向こうから見れば漢字とかひらがなとかだって同じようなものなんだろうけれど。
ビザの次は航空機のチケットである。近くの旅行代理店に相談に行くと、直行便はないので、どこかで乗り換えをしなければならないと言われる。乗り換え地は割と多彩に選べ、例えばモスクワとかバンコクとかイスタンブールとか魅力的な所がいくつもあったのだが、いづれも乗り換え地で一泊せねばならず、結局それを避けると、往路:ウィーン又はフランクフルト、復路:フランクフルト又はロンドン、に限定されてしまう。ロンドンである。これは凄い。誰が東欧に行くのにロンドン経由なんて思い付くだろうか。
結局、往路はウィーンを、復路はフランクフルトを選んでチケットを購入することになった。いづれも成田発着は全日空、経由地からソフィアまではバルカン・ブルガリア航空である。俺は日航より全日空の客席乗務員の制服が好きなので航空会社については異論はない。乗り換え先のバルカン・ブルガリア航空については、きっと他に選択肢はないんだろうし。
成田空港から乗り込んだ飛行機は、チケットにこそ「全日空ウィーン行き」と書いてあるものの、どう見てもオーストリア航空のそれであった。何でもshared codeとか言う仕組みらしく、オーストリア航空と全日空の共同運行便らしいのだが、全日空スッチーのサーヴィスを期待していた俺から見れば完全なサギである。離陸時に後ろを振り返れば、オーストリア人のスチュワーデスがタバコを吸っていたりするし、全日空のスチュワーデスは3人程度しか乗っていなかったりして、これでは全然全日空を選んだ意味がない。機内アナウンスも、ドイツ語、英語ときて最後に日本語である。つまらん。

上は機内の様子である。左の赤い制服がオーストリア航空、右の青い制服が全日空である。12時間ほど飛び続けて、着陸時の減速でどっかのガキがゲロを吐いたりして散々な空路であったが、とりあえず無事ウィーン空港に着くことができた。ここで俺は2時間ほど待たねばならぬ。チェックインも英語でなんとかこなし、あとはバルカン航空の出発を待つだけ、という状態である。ウィーン空港はあまり日本人は居ず、旅の気分を味わうには程よい。ただしあらゆるところに書いてある文字がドイツ語なので少々居心地は悪い。俺が持っている金といえば、米ドルと日本円だけなので、ここでコーヒーを飲むことも出来ないし。

ジリジリと暇な時間を潰した後、漸くソフィア行きの飛行機の搭乗時刻が来て、乗り込むことが出来た。予想通りバルカン航空機はあまり大きくない。

それほど多くの人が乗る訳ではないからこれは当然であるが、困ったことに冷房があまり効いていない。ウィーンまでの飛行機は寧ろ効きすぎで寒かったのであるが、今度は少々暑い。まあ目的地ブルガリアでは冷房がある場所など殆どないらしいから、あるだけでもよしとせねばならないだろう。
席に着くと隣の老夫婦が「ハロー」と声をかけてくる。ブルガリア人はあまり他人に話し掛けないとガイドブックに書いてあったがな、と思いつつ話をしてみると果たしてオランダ人であった。暇が出来たのでブルガリアにリゾートに来たらしい。俺が日本から来たと言うと、日本人はオランダでも珍しいと言われた。ふむ。どこに行っても日本人だらけ、という先入観は訂正しなければならないかも知れない。
ウィーンからソフィアまでは2時間程度、たいした距離ではないからあまり高いところも飛ばず、お陰で外がよく見える。成田発着のヨーロッパ便やアメリカ便は長距離のため窓外の風景など期待できないから、これは久しぶりに楽しいものであった。上の写真は機内から見た地上の様子である。セルビア付近であろうか。

しばらく眺めているうちに飛行機はソフィア国際空港に到着した。意外にも入国審査はすんなりと通り、荷物を預けていない俺は一番にゲートを出ることが出来た。上はソフィア空港の様子であるが、成田やウィーンに比べると古めかしい建物が印象的というか、はっきりいえばあまりキレイではない。だからと言って困ることは全然ないけれど、予期していた通り冷房は付いていないようだ。ただし湿度はあまり高くないので、それほど不快に感じることもない。これは冷房は不要かも知れない、などと楽観的に考えたりする。
とにかく20時間かけてソフィアに無事到着した。今夜はホテルに直行し、明日からいよいよブルガリア国内の旅が始まることになる。

上はホテル窓からのソフィアの展望。午後10時前後。緯度が高い上にサマータイムで一時間ずれているのでそれほど暗くない。
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