時速20キロで走れますか。

今日はバンスコという街へ向かう。
昨日列車に乗り損なったため、バスで行く予定だったのを急遽列車に変更する。ここで列車に乗っておかないとブルガリアでの移動は全てバスになってしまうためである。せっかく来たんだから列車にも乗っておきたいしねえ。

ここはプロブディフ駅である。列車の表記はブルガリア語のみ。例えばСОФИЯと書いてある列車は、首都ソフィア行きなのであるが、訳わからん。ちなみにプロブディフはПЛОВДИВと書く。うーむ。

友人に切符を買ってもらっている間、停車中の列車などを眺めてみる。ホームはやけに低く、乗り込む時には苦労しそうだ。列車は少々古いが日本にだってこのくらい古い列車はあるしその点は気にならない。ただし連結器はクラシックなである。
電化はされているようだが長距離列車はディーゼル機関車が牽引しているところがインターナショナルである。オリエントエクスプレスって確かここ通るんだよな。イスタンブールからロンドンまで、何日かかるんだろう。

ホームには新聞売りなどがいるし、売店はあるし、日本の駅とあまり変わらないようだ。ただし列車が入って来ても何のアナウンスもない。また発車の際も無言である。日本の死ぬほどうるさいアナウンスもイヤだけれど、ここまで何もないと不安になって来る。この辺りはヨーロッパらしく、自分の判断で乗りなさいってことなんだろうな。
改札口のようなものはなく、ホームには誰でも入ることが出来る。但し車内では検札があり、ただ乗りは3倍だかの罰金を払うシステムになっているらしい。発車ギリギリに駅に着いた場合は車内で切符買えるのかな?
しばらく待ったのち我々の乗る列車が到着する。ソフィア行きである。車内は相当汚いだろうと覚悟していたが意外なことにそうでもない。通路は車両の端にあり(日本の寝台車のようなイメージだ)、座席は8人掛けの個室がズラリと並ぶ。全席個室というのもなかなか楽しい。

車内にはクーラーがない代わりに、窓が開く。たいして暑くないのでこれでも快適である。人口が少ないせいか、線路は比較的真っ直ぐで、おまけに線路の幅も日本の在来線より広いのでスピードはかなり速い。思ったより快適な列車にもっと乗っていたいが残念ながらすぐに乗り換えなくてはならない。
乗り換えの駅で線路を眺めて俺は驚いた。線路の幅がさっきの幹線より狭いのである!目測だが80センチ程ではなかろうか。ホームに停まっている列車も多少小さいようだ。車両の中央にトイレがあるのも変わっている。座席はビニールシートで、まるでパイプ椅子のよう。目的地バンスコまでは80キロ程度しかないのに、所要時間は4時間と少し、〆て時速20キロである!

山間部を縫うようにして目的地へ向かうため、列車は林を横切り、坂道を登ってゆっくりとバンスコへ向かう。車内に灯りはなく、トンネルに入ると真っ暗になってしまう。最初のトンネルで大声をあげたのは日本人である俺だけで、これは少々、いやかなり気まずかった。だってさあ列車が真っ暗になるなんて思ってもみなかったんだもん。

広告などは一切なく、車内放送も車内販売もない。4時間列車に閉じ込めて何も食わせないのもなかなか楽しい。まわりの客は心得たもので、各自弁当を持ってきている。俺は何も食べるものを持っていなかったが、朝飯を食っていたからまあいいだろう。但しヒマなのはいかんともし難く、仕方がないからツメなど切ってみたら友人にブルガリアではそういうことを公衆の面前でする習慣はないなどとたしなめられたりする。ちぇ。日本だってないけどさぁ。

デッキは思った通り手動である。落下したら危険とかそういうことを言わないのがヨーロッパのいいところだと思う。危険なことは見れば判るし、ドアは手で閉めることが出来るのだから、誰かが落下したって鉄道会社では責任問題を問われることはないような気がする。調べた訳じゃないけどさ。日本だったら我が子を落とした親とかがJRを相手取って訴訟とか起こしそうだよなあ。

そろそろ高原列車もイヤになって来た頃列車はバンスコに到着する。なるほど列車はトイレがあったり、移動できたりするところはバスよりは快適であるけれど、所要時間の点でバスにはかなわないのである。バスなら2時間半程で着くらしい。世界中何処へ行っても列車って斜陽なのかななどと思う。たくさん乗っていた乗客も、あちこちで乗り降りし、バンスコまで乗り通したのは我々だけのようであった。
バンスコの街は動物が数多く見られる。

ロバがいる。
ヤギもいる。馬もいる。なんと牛車もある。

トリが水浴びをしていたりする。人々がいじめないから近くへ寄っても逃げない。
そして、これらの動物が、柵に囲まれてもいず、つながれてもいないところが素晴らしいではないか。しかしロバなんて何に使うのかな?
たどり着いたホテルはプライベートホテルという、日本で言う民宿のようなところであった。ペンションと言った方が近いかも知れない。
家族が経営しており、ロビーなどの施設はない。着いた時、家族がモノポリーをやっていた。当然ブルガリア語ヴァージョン。「モノポル」と呼んでいるようだ。ちなみに横に置いてあるのは親子電話。

部屋の様子である。オッシャレーな感じぃ?

食堂の設備もないので夕食は近くのレストランで食べる。これは飲み物のメニューを撮影したものであるが、右端の数字が価格である。単位はレフ。一番上の、9000レフのワインは、日本円では720円位に相当する。ブルガリアでは上等なワインである。ブルガリアは有名なワイン輸出国なので、俺も試しに飲んでみたのだが、こいつはマジにメチャクチャうまい。安いしうまいしで涙ものである。コーラは500レフ=40円だ。安いぜ。

ホテルに戻る路上の風景。今日は長い汽車旅で疲れたのでさっさと寝ることにしよう。
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