バンスコの空の下で。

ブルガリアに来てからというもの、毎日信じられないくらい早起きを続けている。6時起床とかはザラだ。はて、なんだってそんなに早起きできるのかって、そりゃあ簡単なことだ。ブルガリアの朝6時ってのは、日本時間では昼12時に相当するからね。
今日は山に登ることになっている。とは言っても、麓まではタクシーで行き、そこからはリフトに乗り、その後歩くだけだ。昨晩の打ち合わせで、「全部歩いてみる?」などと訊かれて、俺がイヤイヤ絶対イヤと答えてこうなった。絶対わざと訊いてるよなあ。
タクシーに乗りに行く最中、登山スタイルの5−6人連れとすれ違う。なるほど、歩いて行けない距離ではないらしい。この分だとタクシー代無駄だったかな、と思っていたのだが、乗ってみるとタクシーは山道を15分程も走り続けて山麓にたどり着く。10キロはあるぞ。皆タフなのね。

リフトはスキーに使われるような代物で、俺達の前に4人ほどの先客がいた。そのうちの一人のTシャツの背中に「東京」と書いてある。おや、と思い、前を見に行くと「日本」と書いてあり、日本地図がプリントされている。おやおや日本の知名度もなかなかのものではないか。俺はよっぽど「天皇陛下バンザーイ!」と叫ぼうかと思ったが、またたしなめられたらなのでやめることにする。

スキーでもないのにリフトに乗るのは初めての体験である。下に雪が積もっていればそれほどでもなかったのだが、地肌が露出していると結構怖い。ただし景色はたいへんよろしい。眼下に見えるのはバンスコ、遠くにはワインで有名なアセノブグラードである。で、山頂を振りかえると、

こんなんである。イヤーン。だからぁ、何度も言ってるように俺はこういうのダメなんだってば、、、、、などとも言えず登り始める。しかし登りというのは本当にキツイ。友人は平気なものでヒョイヒョイと登って行く。うむむ、なめるなブルガリア人、ここは大和魂の見せ所、と根性を見せてやろうと思いきや、15分程であっさりダウン
しかし眼下に広がる景色はすばらしい。右手には小さくてわかりにくいけど湖、

左手には山々である。夜などはきっと星だらけなんだろうな。見てみたいものである。疲れるけど。

しばらく景色を眺めたのちさっきのリフトへ向かう。下りもこれまた難儀である。足元は安定しておらず、気をつけないとコケそうなところを踏ん張るから、なかなかしんどい。どうにかリフトへたどり着くと、あろうことかリフトは停まっているのである。脇のロッジでは男が二人トランプで遊んでいる。彼らに「動かしてくれ」と言うと、トランシーバで麓となにやら話したのち、彼らはまたトランプを再開する。麓にいる人に操作再開を頼んでおいたから、とのことだが、いったいどうなっているのか、リフトはなかなか動かない。20分ほど待っただろうか、いったいいつ動くんだと思い始めた頃、リフトは突然動き出す。見れば次の登り客が乗っているではないか。なんのことはない、次の客が来るまで電気がもったいないから停めていたのだ。

下りのリフトに乗るのもこれまた初体験である。なるほど登りに比べて怖いものだ。大体7月半ばだというのに肌寒い。このあたりの標高は2500mくらいらしい。ホントかな。
麓ではタクシーの運転手が大人しく待っており、早速乗り込んでバスターミナルへ向かう。首都ソフィア行きのバスだ。バスターミナルには4人掛けのテーブルが並んでおり、我々二人はそこに荷物を置いて一休みする。キップを買ってきて貰っている間、疲れ切っていた俺は空いているイスに足を投げ出して座っていたら、またもやそれはよくないと言われてしまう。うきー!!!!日本では、他人のテーブルに着席する習慣はあまりない。たとえイスが空いていようと、誰かが座っているテーブルには座ろうとしないものだが、ここブルガリアではイスさえ空いていれば余裕で座る。4人掛けに3人座っていようと、一人客がやってきて座るのだ。だから、一人ひとつ以上のイスを確保するのはマナー違反になるのであろう。
という風俗習慣の違いを説明して、自分の行動を言い訳しようとも思ったが、面倒なのでやめる
バスに冷房はついておらず、汗だくになりながら乗り込む。いつものように黙ってドアを閉め、黙って発車する。山道をしばらく走ったのち、大きなバスターミナルに着いたときも無言である。先ほど山頂から遠くに見えたアセノブグラードである。しかしいつ発車するかくらい言ってくれればいいのに。
アセノブグラードのターミナルでは乗り換えが頻繁にあるらしく、多くの客が行き来している。ジプシーも沢山いるので、ズボンの後ろの財布を腹の間に入れ直す。バナナなどを買ってみる。20円。そしていつものミネラルウォーター。ああ麦茶が飲みたい。こいつらに飲ませてみたらどんな顔するだろうなどと思う。

アセノブグラードから2時間程で、バスは首都ソフィアに到着する。道路の幅も広く、都会に来たな、という気分になる。

路上には、自動車のほか、日本では見られないトロリーバスが走っている。パンタグラフから電気を供給して走るバスだ。「あれ、ハンドル切り損ねて、パンタグラフから外れると停まっちゃうの?」と訊くと、「もちろん。よくそういうことあるみたいだよ」と笑いながら教えてくれる。日本でトロリーバスが廃止されたのもまさにそれが理由だ。

路面電車も走っている。線路上は、電車も自動車も走ってよいらしく、見ていると目まぐるしくて混乱しそうだ。
明日はいよいよ最終日、市内見物をした後で飛行機に乗る。はてさてどんなことが起こるやら楽しみだが、今日ほど疲れる目には逢わないだろう。
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