Extra Story
-愛するには短すぎる-






 迷・探偵アンソニー・ランドルフ?





豪華客船モレタニア号の船内では、おもいおもいの扮装をした人々があちこちで見かけられる。
今日は仮装舞踏会・・・豪華クルージングにはよくある、船内催し物のひとつだ。
貴族も御曹司も関係なく、皆成りたいもの、好きなものに仮装する。


「クラウディアは、もうホールに来ているだろうか・・・」


足早に人を避けながら、フレッドも舞踏会へ向かっていた。


音楽が始まり、周囲も徐々に賑やかさを増していく・・・
ちょうど音楽が盛上がるところで、メイン扉からホールへ入ったフレッド。
バックグラウンドと御曹司という肩書きのおかげで、いやでも注目の的となる。
そこへ女性ダンサーが笑顔で誘いに来た。


『まいったな・・・それどころじゃないんだが・・・』


それでもダンサーの誘いを無下にできず、あくまで紳士的に振舞う。
その途中で親友の姿を見つけたフレッドは、ここぞとばかりにその場を抜けた。




自分の方へ近づくフレッドに気付いたアンソニーは、その向こうにバーバラの姿を見つけ、
親友には目もくれず彼女めがけて一目散に走ってゆく。


「あ、おい!」


呼び止める声も耳に入らない様子のアンソニーを訝しげに眺めるフレッド・・・
その先にはなんと、バーバラが・・・


「あいつ・・・クラウディアを誘うつもりか?!」


急いで2人のもとに駆け出したフレッド・・・
だがその行く手は、エドワード・スノードンによってにさえぎられてしまった。




「こんばんわ」


いきなり声の低い黒ずくめの男が目の前に現れ、バーバラは少々驚いた。
次の瞬間、見知った笑顔が目の前にいた。


「やあ、バーバラ」

「まぁ、アンソニーなのね。ドラキュラ伯爵?」

「そう。これは仮装パーティーでの僕の十八番」

「吸血鬼が?どうして?」

「それはもちろん、吸血鬼なら気兼ねなく女性に近づけるからだよ」

「まぁ・・・」

得意満面に、いたって真面目に答えるアンソニーが可笑しく、バーバラは思わず笑った。


「さあバーバラ、僕と踊って」


手を取って歩き出したアンソニーと共に、バーバラは笑顔で踊りの輪に加わった。




「ごきげんよう、先日はどうも」


にこやかな様子でスノードンがフレッドに声をかける。


「あ、いえ、どうも・・・」

「実は折り入ってお願いしたいことが・・・」

「なんですか?」

「このような場所で話す内容ではないので、ちょとご足労を」

「え、今?あの今はちょっと」

「いや、是非とも今!」


やんわり断るフレッドに抵抗する隙を与えず、スノードンは力強く彼をホールの外へと連れ去って行った。




ひとしきり楽しく踊っていたアンソニーとバーバラ・・・
いつしかバーバラが浮かない表情になっていることに気付く。


「バーバラ、どうかした?」

「え、ううん」

「のど渇いた?何かもらってこよう」


そう言ってバーバラの手を引き、踊りの輪を抜ける。


「あの、アンソニー・・・」

「ここに座っててよ」


椅子を指し示し、バーバラの言葉を聞こえない振りして、アンソニーはカウンターへ向う。
アンソニーがいなくなると、椅子に座ることなく誰かを探すように周囲を見渡すバーバラ。


『マイケルはどうしたのかしら・・・アンソニーは来ているって言ってたけど・・・』


アンソニーとの会話を思い出しながら、なおも周囲にフレッドの姿を探す。
そうするうちに、フレッドを求める気持ちが強まってゆく・・・


『やっぱり会いたい、マイケルのそばにいたい・・・アンソニー、ごめんなさい』


カウンターで飲み物を頼んでいるアンソニーの方をうかがいながら、心でそっとつぶやくと
バーバラはフレッドを探しにホールの外へ駆けて行った。



その後ろ姿を、グラスを2つ持ったまま見送るアンソニー・・・


「残念、フラれたか・・・」


ふっ、と短く息をつくと、グラスを一つ空にする。
そして、ふーっと長い息をつく。


「ま、まだまだ先は長いさ」


言ってもう一つも空にし、カウンターへグラスを戻した。



「さてと。部屋に戻るにはまだ早いな・・・何か面白いことを探しに探検でもするか、うん」


そう言うと、子供のように眼をキラキラさせてホールを後にした。




探検に出かけてしばらく後、アンソニーはショップが並ぶフロアに来ていた。


「ふーん、まるでパリかミラノかって感じだなぁ。わざわざ船の上で買い物なんて必要ないだろうに」


船内とは思えないような高級ショップの集まりを見てアンソニーは呆れたようにつぶやく。
ショップ並びを通り過ぎると、メインフロアのエントランスから続く吹き抜けのエレベーターホールになる。
メインエントランスの豪華さもさることながら、上階のエレベーターホールもかなりの細工が施されている。


「さすが、造船会社のトップを争うブラウン社だなぁ・・・比較的小型の部類に入るモレタニアでさえこの出来映えだ。
あのキューナード・ライン社がわざわざ設計をさせるだけの価値はあるな」


そう言いながらゆっくりとホールを過ぎてゆく。
その先には2等格にあたるスウィートルームが続いている。


「この先はスウィートルームか・・・確か、客室の先にプールがあるとか言ってたな」


別に泳ぐつもりではないが、何となくプールへ向かったアンソニー・・・


『静かだなぁ・・・まだ皆ホールにいるってことなのかな』


そんなことを考えながら歩いてゆく・・・
客室は数部屋ごとのブロックに分かれており、そのブロックごとにはデッキに続く通路がある。
その一つに差し掛かると開けっ放しの通路扉から風が入り、アンソニーの横顔をやさしく撫でてゆく。


「いい風だな。せっかくだ、デッキを通って行くか」


デッキ目指して通路に入った時、今通り過ぎたばかりの部屋の扉が開いた。
部屋を留守にするには鍵をかけるのが常識。
客室係が部屋を出るなら話し声が聞こえるはず。
だがアンソニーには何も聞こえてこない・・・
いや、ロックするような小さな音は聞こえたが、アンソニーにはそれが鍵をかけたのとは違う音に思えた。
気になって陰からそっと扉の方をうかがい見る・・・


「この服・・・モレタニアの船員じゃないか・・・さっきのは鍵の音か?でも音がヘンだった・・・
それになんでクルーが客室に鍵なんてかけるんだ?
大体、今はパーティーの最中でほとんどの客が出払ってるんだぞ・・・?」


アンソニーが考え込んでいると、そのクルーは向きを変えてこちらへ歩き出してきた。


『まずいっ』


アンソニーは近くにあった観葉植物の鉢植えに回り込むと慌てて身を小さくする。
クルーはアンソニーのいる通路には入らず、そのまま真っ直ぐ進んで行った。
それを確認したアンソニーは急いでクルーの後を覗き見する。
全く気付かない様子でクルーはどんどん歩を進めていく。


「これは・・・ひょっとすると例の・・・よしっ!面白いことになりそうだっ」


不謹慎にもニヤリと不敵な笑みを浮かべ、怪しいクルーの尾行を始めたアンソニー・・・



さて、迷探偵の活躍や如何に・・・?

















フレッド編を期待していた方・・・ゴメンナサイ(苦笑)
まずは、久々のヒットキャラと思しきアンソニーくんです。
u-tsuはこの人の自由気ままなトコが好きなんだなぁ。
憎めないキャラだよね、根はホント良い奴だし。
子供と大人が共存してて、面白い人だ。
でも、一見器用に見えて、実は意外に不器用なトコもありそうだし、
図々しく見えて思慮深いトコもある人だよね。

でも、この内容、アンソニーの子供らしいネガティブさと行動力だけしか
出てないよ(苦笑)・・・
ま、次の機会があれば、彼の大人な部分を書きたいなぁと(ーーゞ

今回は手始めに劇中の裏話ってことで、アンソニーが探偵もどきになった
経緯を想像してみました。
この後、クルーはアンソニーが向かっていたプールのあるデッキへ向かい、
実はそこにはフレッドとバーバラがいて、舞台へ繋がる・・・って感じです。
ま、プールは時期ハズレってことで水も張ってなくて蓋がされていますが(苦笑)
そう、あのままアンソニーがデッキに行ってもプールを見ることはできないという・・・
そして、演出では豪華客船との設定になってますが、モレタニアは客船の中でも
比較的小さな部類に設定してます、勝手ながら。
だって舞台見てても何千人も乗れる客船には全然思えない・・・
しかも4日間であれだけ催しのあるクルージングはあまり無いと思うんだよね。
ま、船旅にも色々あるからさ・・・(^^ゞ
因みに、劇中でも出てくるキューナードラインとは、実在する造船会社らしいです。
台詞から察するに、モレタニアはキューナード社製のようですが、
Extraではブラウン社設計のキューナード社製としてます・・・






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