もう一つの 
王家に捧ぐ歌


エチオピア戦−開かれる扉〜後編−



残すは、あの部屋だけか・・・

背が高く、精悍な顔立ちをした戦士が口を開く。
エジプト軍戦士ラダメスだ。


ラ:「部屋の作りから推測して、王族の誰かの部屋だろう。
   王をはじめ、男達はほとんどが戦っているはずだ・・・」
戦:「たしか、エチオピアには王女がいると聞いていますが?」
ラ:「ん、おそらく王女の部屋だろう」

頷き答えるラダメス。
100人近くの戦士や兵士を率いたラダメスは歩を止め指示を出す。


ラ:「残るはこの部屋だけだ。王女の他に侍女がいるとしても
   数名もいれば事足りるだろう。あとは先刻捕えた捕虜たちの
   見張りに合流し、暴動が起きないよう監視しろ」

ラダメスの言葉に素早く行動を起こす兵士達を確認し、部屋へ向う。

ラ:「油断するな。王女の部屋とはいえ、誰が居るか分からん」

はっ!と居残った兵士たちは身を引き締めた。
そして扉を開けようと、兵士二人が手をかけた瞬間、扉が開いた。
咄嗟に槍を構える兵士と剣を抜く戦士・・・

ただ、ラダメスだけが静かに立っていた。


我が目を疑いたくなる光景を前に、侍女たちは驚いて後ずさりする。
アイーダはちょうど扉の影にいて何が起こったのか分からなかったが、
一人の侍女が姿を見せるなと手で合図しているのを見て、
エジプト軍が部屋の前にいることを悟った。


ラ:「ここは王女の部屋か」

静かだが、拒否する事を許さぬ声音が問う。

ファ:「如何にも。でも王女はここには居りません」

ラダメスはゆっくりと部屋へ歩を進めた。
他の兵士たちは入口で剣や槍を構えたまま待機している。

ちょうど扉を背にしたとき、ラダメスは左背後に気配を感じ剣に手をかけた。
何者かがラダメスへ向って剣を振り下ろす。
が、難なく剣をかわし相手の手首を掴むと、喉もとに剣をつきつけた。
ラダメスは自分を襲った相手を見て驚く。


ラ:「女!?・・・侍女か?」

ラダメスが襲われたのを見たエジプト兵たちは色めき立ったが、
ラダメスがそれを制した。

アイーダ様!と心配する侍女のつぶやく声を聞き逃さなかったラダメスは、
兵士達に扉の外で待つよう指示し、扉を閉めた。

掴まれた手首をさすりながら、アイーダはラダメスを見ていた。


ラ:「済まなかった。まさか女に襲われるとは思わなかったものだから」

本当に済まなそうに謝るラダメスに意外さを感じるアイーダ。   
だが、決して心を許すことはしないという態度は崩さない。


ラ:「王女はここにはいない、と云っていたが、本当か?」

先ほどよりは声のトーンが優しくなりつつも、態度は厳しく問う。

ファ:「本当です。王女様はすでにお逃げになりました」

ファトマはアイーダを守るために嘘をついた。
ラダメスは少し意地悪そうにファトマへ云った。


ラ:「そうか。では先ほど、何故『アイーダ様』と呼んだのだ。
   私を襲ったその少女に向って?」

戸惑った表情で立ち尽くしたままのファトマと侍女たち。
アイーダだけが落着いている。


ラ:「どうした?答えられないのか?」

剣に手をかけ抜こうとする・・・

待って!

ファトマたちは声のした方を見る。
アイーダだ。
だがラダメスは態度を変えず、『やはり』と思っただけだった。


ア:「私よ・・・エチオピア王女は」

ファトマはアイーダに駆け寄り、自分の身体で守ろうとした。  
侍女たちもファトマに続き、アイーダを囲むように立ちはだかる。
が、アイーダは侍女たちの合間をぬってラダメスのところへ向った。   

しばらく二人は互いを観察するように見つめていた。
  



『まだ少女だというのに、強く光るオーラは何だ?
大きな目の輝きは強く逞しく、何より純粋さを感じる・・・
なんという美しい生命力だ・・・』


『敵のはずなのに、どうしてか惹かれてしまう・・・
大国の戦士なのに、何故かこの人が孤独そうで、
何かに迷っているようにも感じる。
でも、この人の目はなんて優しい・・・』


やがてラダメスが静かに口を開いた。

ラ:「改めて聞くが、貴方はエチオピア王女なのか」
ア:「そうよ。私がエチオピア王女、アイーダ」

怖がるでもなく開き直るでもなく、ハッキリとした口調で答える。

ラ:「私はエジプト王を守る戦士、ラダメスだ。
   私の仕事は、エチオピア王はじめその王族を捕え、
   捕虜としてエジプトへ届けることだ」

ファ:「アイーダ様はどうなるのです?!」

掴みかからんばかりの勢いでラダメスに向って叫ぶファトマ。
アイーダは静かに聞いている。


ラ:「まだ分からぬ。エチオピアがこれ以上エジプトに侵攻して
   来ぬように人質として囚われたままになるのか・・・
   それとも、エチオピア王家を根絶やしにする為に処刑されるのか。
   今はまだ何も分からぬ。」

ア:「エチオピア王家を根絶やしに?そんな事をしても何も終らないわ。
   あなたは戦士。戦士は何故戦うの?何を望んで戦っているの?
   勝ったらどうなるの?負けたらどうなるというの?!
   勝った国にとっても、負けた国にとっても戦いは終らない。
   勝っても負けても同じなら、どうして他の道を探そうとしないの?!」

突然の、怒りさえ感じるアイーダの声に驚くラダメス。

『このエチオピアにも、自分と同じく戦う事に疑問を持つ者がいるとは・・・』

ラ:「私は、勝利を収めることで平和をもたらしたいと思っている」

ラダメス自身、自分の言葉に少々驚いたが、やっと自分の戦う意味を
見付けたような感じがした。


ア:「そんなのはただの偽善よ。どんな理由であれ、争いで解決しようと
   思う人間がいるかぎり、ホントの平和なんてあり得ない!
   争いはまた、新たな争いを生むだけよ!」
      
ラ:「私は生まれながらの戦士だ。戦う為に生きている。
   だが、さっきの言葉は本当だ。
   偽善だろうとなんだろうと、それが私にとっての真実だ」

アイーダの純真な思想『争いはまた、新たな争いを生む』という
言葉が、ラダメスの抱いていた疑問に突き刺さる。


『そうか・・・そうだな、彼女の云う通りかもしれない。
だが、今はそんな事を考えている時ではない。
自分の任務を果たさなければ・・・』

ラ:「だが今は、貴方と議論しているヒマはない。
   悪いが捕虜として来ていただく。
   王女付きの侍女たちも一緒にだ。
   少しだけなら身の回り品を持って行く事を許可しよう。
   だが、手早くだ」

ファトマたちはアイーダの身の回り品を整え直し、
心配そうに顔を見合わせた。
ファトマが小声でアイーダに伝える。


ファ:「アイーダ様・・・何があっても、私は貴方と共に
    どこまでも一緒ですからね」  

すると、私も、私もです・・・と侍女たちが口々に告げた。
ラダメスは聞こえぬ振りをして扉の前で待っている。


ア:「お前たち・・・ありがとう・・・」

涙を見せまいとグッと唇を引き締めたアイーダは、
ファトマたちを連れて扉へ向う。


ラ:「では、こちらへ・・・」

ラダメスが扉を開けると、エジプトの兵士達が剣や槍を構えて
アイーダたちを迎えた。


戦:「エチオピア王女は?」

ラ:「いや・・・ここにはいない。すでに逃げた後だった」

何事もなかったかのように答えるラダメス。
アイーダはじめファトマたちは驚き一斉にラダメスを凝視したが、
彼の考えが掴めぬまま、ただ立ち尽していた。


戦:「そうですか。その者たちを尋問して吐かせますか?」

ラ:「いや、それには及ばぬ。この者たちは王族付きの侍女たちだ。
   捕虜としてエジプトへ連れ帰る」

兵士達がアイーダたちを囲む。
ラダメスを先頭に歩き出そうとした時、アイーダが声をかけた。


ア:「待って。あなたは・・・」

ラ:「何だ。なにか不都合でもあるのか?」

ア:「あなたは・・・いえ、なにも・・・」

振り返ったラダメスはアイーダが黙ってしまったので、
そのまま歩き出した。
アイーダたちは身体の自由を奪われることもなく、
ただ兵士に囲まれたままラダメスに付いて歩いてゆく。

アイーダはラダメスの後姿をじっと見つめている。



『なぜ私が王女だと云わないの?
私の身分を隠して、この人に何の特があるというのだろう・・・
この人は、今まで私が見てきた敵とはどこか違う。
でもそれ以外は、この人のことが掴めない。
何を考えているのか・・・どうして私を助けてくれたのか。
このエジプト軍戦士、ラダメスという人は 、何を考えているの・・・』


『なぜ咄嗟に王女はいなかったと答えたのか・・・自分でも不思議だ。
ただ、なんとなく、この人を守りたいと思ってしまった。
初めてこの人を見た時に惹かれた眼差し・・・
強い光となって私の心に突き刺さったように思えた。
この光りに導かれ、私は欲している答えを見つけるのかもしれない。
そう遠くない未来に・・・・』


ラダメスは気付いていない・・・
このアイーダとの出会いが 国の存亡をも左右する 大きな扉であることに・・・



ラダメスは任務を終えケペル、メレルカらと合流した。

結果はエジプトが勝利し、エチオピアはほぼ壊滅状態だった。
だがエチオピア王アモナスロは辛くも軍を突破し、
残兵共々身を隠すことに成功。
引替えに、ウバルド、カマンテ、サウフェらは一瞬の油断が勝敗を分け、
囚われの身となってしまった。

大勢の捕虜を獲得し、軍はファラオの待つエジプトへ向う。


陽は高くなろうとしていた・・・



えぇ〜・・・どんな出逢いだったのかなぁ〜と思ってて(^^ゞ
ホントは戦場でバッタリ・・・っていうのを想像していたんですけど、
書いていったらこんなんになってしまいました。
勇ましいとか云われているアイーダなので、ちょっとは剣も
使えたりしていたのかしら?なんてことも感じましたし・・・
もちろん強くはないんです。素人同然っていうレベルで。
とりあえず振りまわせる程度ってとこでしょうかねぇ。

まぁ、まだ未観劇状態なので、実際に観たら
想像も変わってくるんだろうと思ったりしてます(苦笑)。
結構、イイカゲンです・・・

もう、ホントに、ただの独り言です。
寝言と思ってくれたほうがイイかも・・・

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